デコボコ道でも狭い道でもスイスイ進めるピジョン独自のシングルタイヤベビーカーには、押しやすさへのこだわりがたくさんあります。衝撃・振動を吸収する「スイング式サスペンション」「中空構造のタイヤ」、段差の乗り越えをサポートする「大径タイヤ」、溝や隙間にハマりづらい「太いタイヤ」、そして今回の主役、転回操作性をアップしクイッと曲がれる押しやすさを長続きさせるミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」です。ところで「ボールベアリング」って何だかご存知ですか?どこがスゴイの?なぜベビーカーに搭載?など、ミネベアミツミ株式会社の勝田さんと廣瀨さん、ピジョンのベビーカーの設計に携わる折野さんに伺いました!
目次
曲がりやすさを手助けする「ボールベアリング」って何?
――ピジョンのベビーカーといえば、曲がりやすい「シングルタイヤ」が特長ですが、スムーズな押しごこちを実現するために採用したのが、ミネベアミツミ社製の「ボールベアリング」。今回は、そのヒミツを探りにミネベアミツミのクロステックミュージアムへお邪魔しております。
ミネベアミツミ クロステックミュージアムへ。開発に関する苦労話はもちろんありつつも、終始笑顔の絶えないインタビューに。左から、ミネベアミツミの勝田さん、廣瀨さん、ピジョンの折野さん。
勝田さん(ミネベアミツミ)
ようこそお越しくださいました!ここは、ミネベアミツミの製品や体験展示に触れながら、楽しく学べるミュージアムです。今回は、みなさんにできるだけ分かりやすく、「ボールベアリング」についてお伝えしたいと思います。
ベアリングの技術営業担当の勝田さん。勝田さんの解説は、「ボールベアリング」への愛情もたっぷり。
――ありがとうございます!さっそくですが、そもそも「ボールベアリング」とはどういう製品なのでしょうか?
勝田さん(ミネベアミツミ)
ベアリングとは、Bear(意味:支える)の名詞形Bearingを語源とし、日本語では軸受(じくうけ)と呼ばれます。主に機械などの固定部と回転部との間に組み込まれており、ベアリング内部に転がる玉(ボール)やころ(円柱)、潤滑剤を加えることで摩擦を減らして回転を滑らかにする部品です。
これが「ボールベアリング」。
●ボールベアリングの仕組み
――「ボールベアリング」は、ボール(玉)を採用したベアリングということなんですね!
勝田さん(ミネベアミツミ)
そうなんです。実はベアリングはとても古い技術で、起源をたどれば古代のピラミッド建造の際には、円柱形の丸太を並べて重い石を運搬したと言われていますし、15世紀にはレオナル・ド・ダヴィンチが考案したベアリングの設計図が残されているんですよ!
――そんなに歴史のある技術なんですね!実際にはどのようなものに使われているのでしょうか?
勝田さん(ミネベアミツミ)
代表的なものだと、自動車、航空機、家電、玩具やスポーツ用品、ロケットにも!そのほとんどは見えないところに使われていますが、実はみなさんの身の回りにあふれています。サイズはさまざまですが、ベアリングは製品をスムーズに作動させるために必要不可欠な部品で、多くの機械産業で使われていることから、「機械産業のコメ」とも呼ばれているんです。
ミネベアミツミ社のボールベアリング製造の様子。サイズや型違いなど、8,500種類もあるそう。
「ボールベアリング」を搭載すると何がいいの?
――ピジョンのベビーカーにミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」を採用することになった背景をお聞かせください。
廣瀨さん(ミネベアミツミ)
私たちから、赤ちゃん製品を代表するピジョンさんにアプローチしたことがきっかけです。赤ちゃんの命を守るベビーカーを「ボールベアリング」のちからでより良いものにすることで、子育て中のみなさんのサポートやその先の未来にも繋がる社会貢献だと思ったからです。
デコボコ道でも快適で押しやすいというメリットがたくさんあるピジョンさんの「シングルタイヤ」に、ミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」が使用されたら、絶対に良いものが出来上がる!と、自信を持って提案させていただきました。
ミネベアミツミ社で企業との窓口として、さまざまな提案をしながら製品づくりをサポートするとともに、よりよい社会づくりを目指す廣瀨さん。
折野さん(ピジョン)
日本では、スーパーの狭い通路やショッピングモールの人混みのなかでもベビーカーを押して移動しなければならないことも多く、お客さまの要望として曲がりやすさを求める声が多くあります。
ピジョンのベビーカーの「シングルタイヤ」はおかげさまで好評をいただいていたのですが、新製品を開発するにあたり、当時の私たちには課題がありました。はじめのうちはスムーズに動いていても路面環境に影響を受けたり、使用しているうちに回転部に異物が入り込んでしまうことで「シングルタイヤ」の特長である曲がりやすさが、徐々に失われてしまうからです。
製品のモノづくりを最初から最後まで一貫して担当したいという思いでピジョンに入社し、ベビーカーの設計に携わる折野さん。
折野さん(ピジョン)
そこで研究を重ねた結果、キャスター軸に「ボールベアリング」を搭載することで、旋回性が劣化するという課題を解決しつつ、よりスムーズな小回りも実現できそうだと、採用させていただくことになりました。店頭で感じた曲がりやすさを、ずっと感じてもらいたい…!という強い思いで開発がスタートしました。
ミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」のスゴイところ
――「ボールベアリング」はとても頼もしい部品なんですね。採用が決まって、課題はスムーズに解決をしたのでしょうか?
折野さん(ピジョン)
採用が決まってからは、一刻も早くみなさんにお届けしたいと、構造サンプルの作成・検証を踏まえて、約1年のスピード開発という目標をかかげました。それだけでも大変なのですが、問題はそれだけではなく…。
プラスチック部分が摩擦や異物混入により劣化することで動きが鈍るが、「ボールベアリング」を搭載することで摩擦が減るとともに、接合部分の隙間も小さくなり異物混入という課題もクリアできると想定した当時の企画書。
折野さん(ピジョン)
実はミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」の旋回性が良すぎたため、歩くスピードによってはタイヤがバタバタと暴れてしまう“シミー”という問題が起きました。試行錯誤が続きましたが、結果として部品を追加しキャスター軸の摩擦抵抗を調整することで、曲がりやすさは向上したまま問題を解決することができました。
「ボールベアリング」はキャスター回転軸に搭載。摩擦が減り、転回操作性や耐久性がグンとアップ!
――なんと、性能が良すぎたための問題だったんですね!
折野さん(ピジョン)
そうなんです。ミネベアミツミ社製の「ボールベアリング」は、精密機器や自動車や航空機などにも搭載されているほど超精密加工技術で作られています。工場見学もさせていただいたのですが、精密部品に対するモノづくりの考え方や品質管理体制について大変勉強になりました。
「ボールベアリング」を搭載してから、お客さまからも「長く使用しても走行性が変わらないです」という嬉しいお声もあり、それはミネベアミツミ社製だからこそだと思っています。さらに、お子さまが大きくなり体重が増えても曲がりやすさが変わらないところも、赤ちゃんの成長と共に実感いただけると思います。おかげさまで、これまでになかった新しい価値を生み出すことができたんです。
談笑しながら開発時当時を振り返るみなさん。
――お子さまが成長しても長く快適に使用し続けられる秘密が、わずか2cmほどの小さなパーツかと思うと、改めてすごい技術ですね。ミネベアミツミ社は「ミニチュアボールベアリング」では世界シェアNo.1(※)とのことですが納得です!
※外径22mm以下のボールベアリング市場、ミネベアミツミ社調べ。
勝田さん(ミネベアミツミ)
ありがとうございます!50年以上にわたって蓄積された自社独自の技術を活かし、絶えず高精度を追求してきました。一つひとつのパーツがとても小さいので、加工することも組み立てることもとても大変ですが、日々工場の方々が手組みで製作しているんです。この高精度な機械加工と組み立て技術で、外径1.5mmというスチール製ボールベアリングの開発に成功し、世界最小の量産可能な「ボールベアリング」として世界記録にも認定されています。
日本の最高峰の機械式腕時計に採用されたほか、世界記録にも認定された。
廣瀨さん(ミネベアミツミ)
ミネベアミツミは1951年に日本で最初のミニチュア・ボールベアリング専門メーカーとして創業しましたが、現在はモーター、センサー、半導体など幅広く部品を展開しており、情報通信、航空宇宙、自動車、家電などの各業界に製品を供給する、「相合」精密部品メーカーとして成長しました。「相合」とは自分たちの技術を融合し「相い合わせる」ことで新たな製品を創出することを意味しています。新型LED照明器具や介護施設向けのベッドセンサーシステム※、スマートシティソリューションなど、自社製品を融合したビジネスも展開しています。
※ベッドセンサーシステムは、ミネベアミツミ株式会社の登録商標です。登録番号は6152256 号です。
オリジナル製品のひとつ、スマートフォンを利用してドアの施錠・解錠が行えるスマートロック「SADIOT LOCK」。
――「ボールベアリング」からスタートして、いまはその技術力を活かしてさまざまな分野で活躍されているのですね!
廣瀨さん(ミネベアミツミ)
今回来ていただいた「クロステックミュージアム」は、ミネベアミツミの8つのコア(主力)事業をはじめとしたさまざまな技術を知っていただきたいと、2023年9月、東京都汐留地区にオープンしました。お子さまに楽しく体験していただいて、モノづくりの楽しさを知ってもらいたいと考えた構成になっています。予約制となっていますが、みなさんもぜひ遊びに来てください!
「クロステックミュージアム」内のベアリングコーナー。どのような技術で製造されて、どのように活用されているのかが、体験を交えながら楽しく学べる。右下の写真は、「ボールベアリング」の搭載の有無で模型の車のスピードが変わるという実験。
自動車や航空機にも使われる最先端技術を搭載したベビーカーで、快適な子育てを応援!
―完成したミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」を搭載したベビーカーはいかがでしたか?
「街でもピジョンさんのベビーカーを見かけると、人々の役に立てているんだなあと、嬉しい気持ちになります」と、ミネベアミツミの勝田さんと廣瀨さん。
折野さん(ピジョン)
ミネベアミツミ社製の「超精密ボールベアリング」が最初に搭載されたのは、2019年3月発売の「Bingle BA9」からで、4月には「Runfee RA9」も発売、以降すべてのシングルタイヤベビーカーに搭載しています。搭載したことによる走行性の良さはピジョンのベビーカーの強みにもなっていて、採用して本当に良かったと実感しています。
廣瀨さん(ミネベアミツミ)
縁の下の力持ちとして、ピジョンさんに弊社の製品を採用していただき、ベビーカーを通して子育て中のみなさんと繋がることができているのがとっても嬉しいです。
勝田さん(ミネベアミツミ)
そうなんですよね。エアコンや冷蔵庫など多くの身の回りの家電や機械に搭載されてはいるのですが、構造に組み込まれている部品なので、実際にその能力を実感できるものは少ないんです。そんななかでピジョンさんのベビーカーでは「ボールベアリング」の効果を体感しやすいので、みなさんに身近に感じていただけるのは、私たちも励みになります。今後も強力にサポートができるように、開発を進めてまいります!
廣瀨さん(ミネベアミツミ)
実は弊社の社員にも、ピジョンのベビーカーの愛用者が多いんですよ!
折野さん(ピジョン)
え!?そうなんですか!!!知らなかったです。それは本当に嬉しいです。
ミネベアミツミの社員にピジョンのベビーカーの愛用者が多いということで、嬉しい驚き!
最先端の技術を搭載したピジョンのベビーカー。「ぜひ、クイッと曲がれる押しやすさを体感してください!」
―ピジョンのベビーカー、今後はどのように進化していきますか?
折野さん(ピジョン)
モノが溢れかえった時代に、ただお客さまにとってよい商品を作るのだけではなく、例えばリサイクル性など、その後の未来を考えた商品開発をしていくのが課題です。個人的にも、少子化が進むなかで「育児をしてみたい」と思える商品や環境を提供出来るようなモノづくりをしていきたいという大きな未来を描いています。
ピジョンのベビーカーはこだわりがたくさん詰まっています。店頭に足を運んでいただき、ベビーカーを押し比べてみてください。“赤ちゃんとのお出かけを最高に幸せな時間にしたい”という想いを込めた、ベビーカーを体感してもらえたら嬉しいです。
今回お話を聞いたみなさん
ミネベアミツミ株式会社
勝田さん
ベアリングの営業技術担当。営業と工場の中間のような立ち位置で、営業担当を技術面でサポートしたり、お客様のリクエストを工場と相談し形にする仕事に従事。写真はミネベアミツミのコア事業である8本槍とサブコア事業をキャラクター化した「X-RANGERS(クロスレンジャー)」の前で撮影したもの。
ミネベアミツミ株式会社
廣瀨さん
営業窓口担当として、法人のお客様にベアリングを販売。お客様に一番近い立場で、ご要望やお困りごとをキャッチし社内との交渉や調整を担う。
ピジョン株式会社
折野さん
ベビーカーの躯体に関する設計を担当するほか、ファブリックを含めたアイデア検討から、車体全体の安全性・品質・量産工程の確認など製品開発全般に携わる。
●今回訪ねた場所
クロステックミュージアム
「ミネベアミツミの特性を活かし、世界のものづくりを支える技術」をテーマに、小学5年生以上を主対象とした体験・体感型のミュージアム。ゲートを通りクロスシップに乗船することから冒険がスタート。ミネベアミツミのコア事業である8本槍とサブコア事業をキャラクター化した「X-RANGERS(クロスレンジャー)」のナビゲートのもと、展示コーナーに移動すると、実際の製品や体験展示に触れながら、楽しく学べ、ものづくりへの興味や関心、新たな発見にも繋がるよう設計されている。見学予約は公式ホームページからお問い合わせを。
〒105-0021 東京都港区東新橋1丁目9番3号
ミネベアミツミ 東京クロステックガーデン
\ピジョンのベビーカー・ベビーカー用品/
文・写真/エチカ