電動鼻吸い器『SHUPOT(シュポット)』が、いよいよ8月7日(月)に発売します。耳鼻科の機器に匹敵する吸引力やお手入れのしやすさに定評があり、置き型の電動鼻吸い器人気ランキングでも常に上位にランクインする前機種からの改良点を洗いざらい出し、そこに手を加え、さらにデザインを一新。パワーアップした新・電動鼻吸い器SHUPOTは、ピジョン社内でも、モニターをしてくださったママたちからも大きな期待を集める注目の商品です。今回は、開発に約2年半を要したSHUPOTの開発ヒストリーと商品の魅力について、開発担当の林さんとプロダクトデザインを担当した久保田さんにたっぷりとお話を伺いました。
目次
まずは話し合いから リニューアルへの最初の一歩
ーーSHUPOTの完成に向けて、既存品からの改良ポイントはどのように決めたのでしょうか。
林さん
各部署の担当とも話し合いながら、自分たちで改良ポイントを出していきました。そこで柱となったのが、「吸引力」「静音性」の改善でした。吸引力の高さは前機種においても最大の強みでしたが、より力を入れていきたいということと、音については社内外から声が上がっていたので、静音性は真っ先に取り入れるべき課題だよね、という意見で一致しました。
ーー久保田さんも最初の話し合いから参加されていたのですね。
久保田さん
そうですね。いくつか使いやすさを向上させるためのアイデアを出して、それをイラストに描き起こして、お客様にご意見をいただく調査をしながら進めていたので、最初期から携わっていました。
ーー林さんは日常的に前機種をご自身のお子さんに使っていて、そこから見えてきた改良ポイントもあったそうですね。
林さん
「鼻水キャッチャー」と「鼻水流れ込み防止ケース」ですね。鼻水キャッチャーは、取った鼻水がチューブに流れ込まないようにするためのもので、前機種では、赤ちゃんが暴れて、そのはずみで鼻水キャッチャーを振ってしまったときなど、稀に鼻水がチューブに入ってしまうことがありました。そこで、鼻水キャッチャー内の流路を今まで以上に長く複雑にし、鼻水キャッチャー内でしっかりと鼻水と空気を分離させることで、チューブへの流れ込み防止を強化する構造に改良しました。
鼻水流れ込み防止ケースは万が一チューブに流れ込んでしまった鼻水をポンプの前で止めることで、ポンプへの流入を防止する場所です。前機種にも付いていましたが、外から見えず、底から抜く仕様でした。このため、鼻水が溜まってもなかなか気づくことができず、たまたま妻と「気づかないうちに、ここに溜まっていることがあるんだよね。」などと話しながらケースを見たところ、実際に溜まっていて驚いたことが、鼻水が外から容易に確認できる仕様に改良したいと思ったきっかけでした。
久保田さん
鼻水流れ込み防止ケースは、どこに付けるかを結構話し合いましたよね。最終的に上から見える天面に設置することになりましたが、誤作動で上に抜けないようにしたり、引き抜けることを直観的に理解していただくために、その部分だけ一段下げて持ちやすいカタチにしたりなど、細かな部分の改良を実現できたのは、よかったなと思っています。
ーー鼻水キャッチャーは、構造だけでなく、容量も改良していますね。
久保田さん
はい、前機種のキャッチャーよりも容量をアップさせたいという開発の意向がありました。容量をアップすると、どうしてもサイズが大きくなってしまうのですが、それを最小限に抑えつつも、持ちやすくするにはどうしたらいいのかということをずっと考えていました。持ちやすさで言えば、手にしたときに人差し指が自然に沿うよう側面を凹ませたり、親指がフィットするようにヘリの幅を狭めたりといった改良も行いました。
安全性と吸引力の実現は、ポンプの開発から始まった
ーー吸引力の改良で取り組んだことはなんでしょう。
林さん
最初に「吸引圧」と「吸引流量」というポイントに着目しました。吸引圧と吸引流量を上げれば、もちろん吸うことは吸うのですが、体への負担の問題があります。鼻の内部はとてもデリケートですので、傷つけてしまわないためにも、吸引圧は前機種と同じままに、吸引流量を変更してみようと考えました。吸引流量というのは、1分間にどれだけの量の鼻水を運べるかということですが、これを評価するにあたり、鼻の模型を自分で設計・作製し、擬似鼻水を作って、取れる・取れないの評価をしました。
ーー擬似鼻水ですか?
林さん
はい、水と粘性のあるものを混ぜて、異なる粘度の擬似鼻水を10種類ほど作りました。小児科の先生にご意見をお聞きしながら実際の鼻水の粘度に近いものを選定し、以後、試験で使いました。鼻の模型も先生から解剖図を見せていただいたり、アドバイスをいただきつつ、自分で図面を引き、3Dプリンターで作成しました。OKをいただけたのは、5作目でしたね。
鼻水は人体の複雑なところにあるので、ただ吸うだけでは評価にならないと思ったんです。だからこそ、しっかりとした鼻の模型や実際の鼻水に近いものを作ることが重要でした。その結果、吸引のポイントがわかり、改善につながりました。
ーーポンプも1から開発したそうですね。ご苦労も多かったのでは?
林さん
鼻水吸引に適したオリジナルポンプを開発することで、今まで以上に効率良く鼻水を吸引できることを目指しました。ポンプの中には流量を発生させるゴムが入っているのですが、その形状や硬度を何度も変えて、満足する性能にする作業は大変でしたね。試作して、性能確認して……ということを何度も重ねました。
久保田さん
林さんが中身を作っている間に、僕は外観の形状デザインを考えていたという感じです。ポンプなど中の部品類がどれくらいのサイズになるかということに左右されるので、そこは横目に、デザインを進めていました。
林さん
概算でもいいから大きさを決めないと彼も進められないので……。
久保田さん
開発スケジュールは二人で相談しながら進めていました。早めに大まかなサイズ感を決めてもらえたので、デザインの進みはスムーズでした。
吸引力を向上させつつ、静音性のさらなる追求
ーー静音性の改良で取り組んだことを教えてください。
林さん
吸引力を向上させたことで、ポンプの音は必然と大きくなってしまいます。それをいかに静かに抑え込むかというところで悩みました。
鼻吸い器を作動中、ポンプは内部で振動しています。そこでポンプの設置方法を工夫して、ポンプが振動しても電動部全体が丸ごと震えないように対策しました。
また、構造上、ポンプには空気を吸ったら出す排気口が必要になります。この排気口からも結構音が漏れるんですね。そこで、この排気口の構造も工夫することで、音を静かにしました。それともう1つ、各部品の合わせ目からも音が漏れてくるんです。隙間をしっかりと密閉したり、鼻水流れ込み防止ケースのような設置している部品が振動でカタカタしないように、鼻水流れ込み防止ケースを設置する場所にも防振ゴムを付けたりして、とことん静音性を追求しました。
久保田さん
当初は本体に持ち運びしやすいハンドルをつけることを検討したのですが、ハンドルを付けてしまうと、その隙間から音が漏れてしまう懸念がありました。最終的に両サイドに取っ手を付けてお鍋のように持ち運べるような仕様にしたところも、静音性を重視したポイントですね。
ーー実際にできあがってきて、静音性についてはいかがでしたか。
林さん
21年の12月に、プロトモデル(試作品)が上がってきたのですが、最初に感じたのが、本当に静かということでした。前機種と聞き比べてみても、かなり静かでしたね。実際に子どもに試したところ、あまりに静かなので最初は「ん?」という反応でした。鼻吸い器だと気づかなかったようです。
暮らしになじむだけじゃない!使う人のことを考え抜いた、デザインのこだわり
ーーSHUPOTのデザインについて、こだわったポイントをお聞かせください。まず、円筒形にした理由はなんでしょう。
久保田さん
チューブをどうやって収納するか、というところが始まりでした。チューブって、丸めたときに広がっていこうとする力がありますよね。他社さんの製品でも、チューブをどこかに巻きつけたり、バンドで束ねたりといろいろなまとめ方をしているのですが、僕は、チューブが外側に広がっていこうとするのであれば、その全周をすべて面で押さえてしまえば止められるんじゃないかと考えました。それが本体を円筒形にして、天面をお椀型にくりぬいたような形状にした理由です。
ーーチューブが付いたものは、片付けがとにかく面倒ですものね。
久保田さん
はい。片付けを簡単にする機構にして、手間もストレスも可能な限り減らす、ということが重要でした。そうやって円筒形に決まったので、ほかのパーツもすべて円をモチーフに作っていったのが、本体のこだわりポイントです。
林さん
鼻水キャッチャー自体も、ストレートな部分がないんですよね。
久保田さん
そうですね。これは前機種のデザイナーのこだわりでもあったのですが、このきれいなラインは崩したくないなと思ったので、なめらかな曲線で全部がつながるようなデザインにしました。このカタチにまとまるまでには何度も試作をくり返していて、あまりに何度も作り直すので、途中、林さんには引かれているんじゃないかなと思っていました。
林さん
引いてないです(笑)。一見すると直線に見えても、図面を見ると確かに直線ではない。そんなふうに、パーツそのものの曲線にもこだわってくれるので、プロは違うなと感じました。
ーー鼻水キャッチャーは、こうしてテーブルに置いてあるだけでもきれいですよね。
久保田さん
内部の2層構造のパーツとヘリの形とをきれいに合わせているので、上から見たときに一つの形に見えるようにデザインしています。また、せっかく透明のパーツなので、光が当たったときに、キャッチャーの全周に光が回るようにしたくて……。持ちやすさはキープしつつも、フタのカーブなどは何度も試行錯誤して、きれいに光が回るようにしました。
こうして形になったときは、納得するものに仕上がったよろこびと安心感とで、何度も手に取っては眺めていましたね。
林さん
私も鼻水キャッチャーに関して原理モデルを作製した時に、容量は大きくしつつ、持ちやすいもの等、結構無茶を言っていましたが、実際に手に収まるようなフィット感で実現してくれたので、本当にいいものができたなという思いはありますね。
ーー全体の色味もとても素敵です。
久保田さん
ここ10年くらいで、白い壁と木目の家具とグレーのカーテンというようなシンプルモダンなインテリアのご家庭が増えていることを考えて、そこになじむ色ということで、今回、白とグレーという2色を決めました。SHUPOTは医療機器ですが、医療機器色が強いと部屋から浮いてしまうので、白は白でもちょっとやわらかい白、グレーも白の配合が多い、ペールトーンのグレーを採用しました。機能性の高さは感じつつも、全体的にやわらかさを感じられるような色選びをしています。
コロナ禍での苦労も!
ーー小児科の先生とのエピソードで、印象に残っていることを教えてください。
林さん
鼻吸い器は処置をするものなので、安全に使用していただきたいという思いがあります。先生から子どもは暴れちゃうから安全に鼻水吸引ができる姿勢や抑え方、鼻の構造やノズルの当て方等のお話しを聞かせていただいて、勉強になりました。鼻の内部は繊細で傷つきやすく、少しの刺激でも鼻血が出てしまうので、奥に入らないノズルにするなど、商品に活かされています。
ーー鼻吸い器のモニターも、先生の病院で行ったそうですね。
林さん
ちょうど2021年の12月、コロナ禍の真っ只中でした。感染リスクの心配もあり、もう一人の担当者と一緒に、マスクを二重にした上でフェイスマスクを装着し、防護服も着て、完全防備で行いました。朝から夕方まで丸一日、冬なのに全身汗だくでシャツの色が全部変わるくらいでした。
ーーお忙しい先生に、一時間でもいいからとお願いして、お話を聞く時間をいただいていたと聞きました。
林さん
そうですね。診療が終わるまで、待たせていただいていました。
ーーその努力の積み重ねもあって、社内の営業担当の方に商品説明をする支店説明会では、SHUPOTは大反響だっとか。
林さん
営業さんの反応を見て、素直によかったなと思いました。帰り際に「絶対に売るから!」と言ってくださった営業さんもいて、うれしかったですね。
SHUPOTを検討しているママやパパへ
ーー最後に、SHUPOTを検討しているママやパパにメッセージをお願いします。
林さん
前機種を開発したときのさまざまな知見や、お客様の声もたくさん聞いてきました。それをいかにSHUPOTに盛り込むか。本当に、盛り込むだけ盛り込みました。そして、私が実際に子どもに使っている中で感じた使いづらさの打開策もすべて盛り込んだ製品になっています。赤ちゃんの鼻詰まりの解消に役立つと思っていますので、ぜひ使っていただきたいと思います。
久保田さん
鼻吸い器において今できることは全部やり切りました。前機種も非常にいいものでしたが、それをいかによりよいものにするかということを考えに考え抜いた製品だと思っています。赤ちゃんの鼻詰まりを少しでもラクにしてあげられることに役立つので、ぜひ使っていただきたいです。
おふたりに「SHUPOTができるまでを振り返ってみていかがですか」と質問したところ、林さんは「店頭に並ぶのを早くみたいですね。前機種を1台持っていますけれど、自分でも買いたい。家に置いておきたいです。それくらい、愛着がありますね」。久保田さんは「データから何からひたすらコツコツ作ってきたものなので、思い入れが強いです。シンプルに売れて欲しいですし、ひとりでもたくさんの赤ちゃんのもとに届いてほしいです!」というコメントをくださいました。
久保田さんが考案した「鼻水がシュッと吸えて、ポット型だからSHUPOT(シュポット)」というネーミング通り、たくさんの赤ちゃんをスッキリと、笑顔にしてくれることでしょう。