耳鼻科の機械に近いパワフル仕様で、奥の鼻水までしっかり吸引する電動鼻吸い器『SHUPOT(シュポット)』の発売から1年。待望の手動タイプの鼻吸い器『SHUPOT-pump(シュポットポンプ)』がデビューしました。ピジョンの社員ママ&パパたちからも「欲しい!」の声続出のこの商品の魅力と開発ストーリーを開発担当の林さん、プロダクトデザインの伊藤さんにお聞きしました。
大ヒット商品『SHUPOT』との違いは?
片手が空くから赤ちゃんの顔や体を支えながらサッと吸引できる手動鼻吸い器『SHUPOT-pump』。(写真右)重さ約98g、高さ約 12cmと軽量でコンパクトなため、持ち運びにも便利!
――売れに売れている電動鼻吸い器「SHUPOT」シリーズから手動鼻吸い器が出ると聞いて楽しみにしていました。2024年8月5日に発売された『SHUPOT-pump』は、どんな商品ですか?
林さん
『SHUPOT』と同様に、鼻水を皮膚から浮き上がらせる「吸引圧」と浮き上がらせた鼻水を運ぶ「吸引流量」の2つの数値を最適なバランスで設定して効率的に鼻水を吸引できる手動鼻吸い器です。『SHUPOT』が鼻の奥の鼻水もしっかりと吸引することができるのに対して、『SHUPOT-pump』はすでに見えている鼻の手前にある鼻水を吸引するのに適している製品です。
手動鼻吸い器『SHUPOT-pump』の吸引
手前にある鼻水が取れる
電動鼻吸い器『SHUPOT』の吸引
鼻の奥にある鼻水まで取れる
伊藤さん
両手で操作する手動鼻吸い器や口で吸う鼻吸い器は多数販売されていますが、動いてしまう赤ちゃんの鼻水をサッと吸引することが難しいものが多くあります。一方、『SHUPOT-pump』は片手で簡単にしっかり鼻水吸引ができることが大きな特徴です。もう片方の手で赤ちゃんのお顔や体を支えながら安全に鼻水吸引ができるんです。
赤ちゃんのお鼻にぴったり密着する「フィット鼻ノズル」とにぎりやすく最適な吸引圧・吸引流量を実現するシリコーンポンプで、片手でラクラク鼻水を吸引できます
林さん
口で吸引する鼻吸い器の吸引力は、使う人の肺活量に左右されるので使いこなすのが難しいアイテムだと思います。その点、『SHUPOT-pump』はシリコーンポンプをシュッシュッと押して鼻水を吸引するスポイト式なので、安定的に吸えます。赤ちゃんは大人よりも鼻の粘膜が敏感で、気温の変化など少しの刺激で鼻水が出やすくなったり鼻が詰まったりするので、鼻水が見えた瞬間にサッと吸引できることはとても大切なんです。
小児科医監修! こだわりのポイントとは?
――監修には、小児科医の先生にも入っていただいたそうですね。
林さん
はい。他社製品もお見せしながら、「当社ではこのような製品仕様で考えています」とお伝えするところから始まり、専門知識はもちろん、ユーザー目線もお持ちの先生から「これだとお子さんを押さえながらできないのでは?」「構造が複雑すぎて組み立てやお手入れが大変なのでは?」などとアドバイスをいただきながら、それを1つ1つ改良していくことを重ねました。
伊藤さん
最初はパーツの数も今より多かったり、シリコーンポンプの大きさも大きかったりしたのですが、削ぎ落として、構造的にもデザイン的にもどんどんシンプルに、そして使いやすくなっていきましたよね。
『SHUPOT-pump』のこだわりポイント
林さん
小児科医の先生に監修いただいたことで、以下のような商品開発が叶いました。
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こだわりポイント1
鼻の構造を熟知しているからこその商品開発今回の手動鼻吸い器は、電動鼻吸い器と比べて、吸引力をやさしく設定する必要がありました。試作品の初めの段階では、なかなか鼻水を吸引しきれませんでした。そこで、先生の意見をお聞きしながら『吸引圧』と『吸引流量』の数値を見直すことで、専門家でなくてもしっかり吸える商品になりました。また、実際に商品ができあがってからは先生の使い方をしっかり見て学ばせてもらい、ノズルを当てる角度やシリコーンポンプの握り方などの吸引方法を取扱説明書に反映しました。
こだわりポイント2
ママやパパの困りごとに寄り添った商品開発当初あった「これだと組み立てられないよ」という先生のご意見にも、かなり時間を割いて検討を重ねました。『SHUPOT-pump』には、鼻に空気が入ったり、中に溜まった鼻水が先端から噴射したりすることを防ぐための「シリコーン弁」をはじめ、6つのパーツが付いています。これらの部品を洗浄の際に取り外しても、直感的に組み立てられるように改良を重ねました。片手で簡単にしっかりと吸引できることとお手入れのしやすさには、日頃からママや赤ちゃんと接し、赤ちゃんの鼻水の困りごとを熟知している小児科医の先生の視点が凝縮されています。
暮らしになじむスタイリッシュなデザイン
マトリョーシカのような、コロンとしたフォルムが印象的
――デザインも目を引きます。
伊藤さん
ありがとうございます。この形状の決め手は、小児科医の先生がモニター調査の中で「ちゃんとした位置をにぎったほうがしっかりと鼻水を吸える」というところを見せてくださったことにあります。ママやパパがポンプの最も太いところを感覚的ににぎってもらいやすいように、シリコーンポンプにカットを入れたのですが、このカットによって、コロンとかわいく親しみのある形の中にもスタイリッシュさを表現できました。
シリコーンポンプは底から見ると、多角形になっているのがよくわかります。実際に製品を使用してもらったモニター調査では、普段ほかの鼻吸い器では泣いてしまうお子さんが『SHUPOT-pump』では泣かなかったのだそう
伊藤さん
シリコーンポンプのカットの幅は、指にフィットするように調整しました。デザインになじみつつも、にぎる場所をガイドする役割を担っています。角の出っ張り具合も、プッシュしたときに指が当たって痛くならないように、丸みをつけた点もこだわりポイントです。
ママやパパの使い心地も考慮した、シリコーンポンプ
検討を重ねた色みの調整
電動鼻吸い器『SHUPOT』(右)は、赤ちゃんの鼻水の量や頻度が多く、しっかり鼻水を吸ってあげたいときに
伊藤さん
今回、電動鼻吸い器SHUPOTに合わせてカラーリングを決めたのですが、色のついた半透明のシリコーンの素材というのがこれまでのピジョンの製品にはあまり使ってこなかったこともあり、色みの調整には時間を要しました。鼻水が漏れて流れ込んだときに気づけるような透け具合になっているのですが、当初は思うような色が出ませんでした。何度も調整を重ね、最終的に電動鼻吸い器のSHUPOTと並べたときにきょうだい感のある色味に着地しました。
ヒントはさく乳器? シリコーン弁の成功がお手入れのしやすさのカギ
部品の構成やサイズなどを変えながら、最終的に46種類程の形状を検討したそうです
――開発するなかで苦労したことを教えてください。
林さん
吸引圧と吸引流量の設定に最も苦労しました。電動鼻吸い器の開発の際はある程度のあたりはつけていました。しかし、今回の手動鼻吸い器では、電動鼻吸い器に比べて吸引力は下げていますが、鼻の手前の鼻水はしっかりと吸引したいため、どこまで吸引力を下げてよいか、調節するのに苦労しました。
伊藤さん
シリコーンポンプの硬度(硬さ)にもこだわりましたよね。硬すぎると腱鞘炎(けんしょうえん)になってしまう方もいらっしゃいます。シリコーンポンプを繰り返し手で押しても疲れにくく、ちゃんと吸引できるというギリギリのところを攻めました。
林さん
もともとシリコーンポンプのサイズをひとまわり大きく、シリコーンの硬度は1つ上の硬さに設定していました。しかし、シリコーンポンプが硬くて押しにくかったり、吸引力も弱く鼻水がしっかりと取り切れませんでした。そこで、シリコーンポンプのシリコーン硬度を下げつつ、厚みや形状、サイズを工夫することで、押しやすさと吸引力を両立させました。伊藤さんにもそのたびに何度もデザイン依頼をしてしまいました。
画期的な構造の「シリコーン弁」をひらめいた瞬間
林さん
手動鼻吸い器は、鼻水の逆流を防ぐために「シリコーン弁」が付いています。
多くの場合、空気の通り道と、鼻水の通り道の2つの流路をコントロールするため、弁は2個設置されています。そのため、組み立てが大変だったり、小さい部品のため失くしてしまう恐れもありました。お手入れや組み立てのしやすさの観点から、これを1つにしたいという思いがありました。何度も試行錯誤を重ねて、たどり着いたのが、スリットが入ったドーム状の弁と円盤状の弁を一つにしたものだったのですが、実は、ピジョンのさく乳器の「シリコーン弁」から着想を得ました。
(左)『ピジョン 母乳アシスト さく乳器』のシリコーン弁」(右)『SHUPOT-pump』のシリコーン弁
林さん
シリコーンポンプをつぶしたときの空気を横へ逃すことで、ノズルへの逆流を防ぎながら鼻水吸引するのですが、空気を逃すときにはノズルにつながる流路は先端を塞がないといけません。
そうしないと、先端から空気や溜まった鼻水がもれてしまうんです。従来の弁の形状のまま、2つの弁を一つにするのも検討はしましたが、組み立てにくい上に、吸引時にピーピーと音が聞こえてしまうという問題が発生しました。そこでヒントになったのが、さく乳器のシリコーン弁だったんです。ドームの先端にスリットを入れることで、シリコーンポンプを押したときはスリットが開きます。それと同時に、周りの円盤状になっている部分はアダプター本体にくっつき、先端への流路を塞ぐことで、空気をノズルの先端に逆流させずに外へ逃がします。シリコーンポンプをはなして鼻水を吸引するときはドーム部分のスリットがキュッと閉まりつつ、円盤状になっている部分 はアダプター本体から離れてノズルからの流路が通るようになります。これ1つで空気と鼻水の2つの通り道をコントロールする弁が完成しました。
弁のドーム部分先端の切り込みと円盤状になっている部分
伊藤さん
林さんがこの方法を思いついたときは、みんなで「天才だね!」と、大喜びしたんです。ところがご本人は涼しい顔をされていましたね(笑)。
林さん
もちろんホッとしましたが、その時点では、先はだいぶ長かったですからね(笑)。
シリコーン弁の取り付け方
シンプルな構造で、シリコーン弁の取り付けも簡単!
まだある!赤ちゃん思い、ママ&パパ思いの秘密
林さん
吸引した鼻水を確認できるように、アダプターはクリアな素材を採用しています。取れた量だけでなく、鼻血が出ていないかなど、いち早く気づいていただけます。また、フィット鼻ノズルはSサイズとMサイズの2種類をご用意しているので、生まれたての赤ちゃんから成長に合わせて、長くお使いいただけます。
先端のフィット鼻ノズルは、電動鼻吸い器SHUPOTでも使えます。アダプターは、耐久性、透明度に優れたポリカーボネート素材
同じ厚みだと錯視で歪んで見えるアダプターの内部は、正面から見たときに均一になるようにデザイン。「先輩からアドバイスをいただきながら調整しました」と、伊藤さん。細部までこだわり抜かれています。
伊藤さん
パーツは丸ごと洗浄できます。もちろん、スチーム除菌・薬液消毒・煮沸除菌もOKです!
※フードは薬液消毒のみに対応しています。
パーツ数が少なく、大きいのでお手入れがしやすい
パーツは取り外しも取り付けも簡単。使うごとにサッと洗えて衛生的です
『SHUPOT-pump』をこんなシーンで使って欲しい!
林さん
鼻水が見えたら、ティッシュ感覚でシュッシュと使っていただきたいですね。サラサラで少量のときや、電動タイプを出すほどでもないときにもとても便利です。
伊藤さん
リビングに置きっぱなしにしてもいいような形状とカラーにこだわって作ったので、ぜひ手に取れるところに置いて、日常的にご活用いただきたいですね。また、チューブがないうえに、バッグに入れて持ち運べるコンパクトなサイズ感ですので、外出先や帰省のときなどにもご活用いただけると思います。
まとめ
「“シンプルにしっかり吸える”ということにこだわった商品なので、これまで以上に手軽にお使いいただけると思います」と語る開発の林さん。赤ちゃんは鼻詰まりの不快感を伝えることができないからこそ、安全に安心して使える鼻吸い器で、しっかりケアしてあげたいですね。林さん、伊藤さん、ありがとうございました!
今回取材したのはこの人
ピジョン株式会社 開発担当
林さん
開発に約2年半を要した電動鼻吸器『SHUPOT』も担当。
ピジョン株式会社 デザイン担当
伊藤さん
新卒入社3年目。『SHUPOT-pump』が初めてデザインを手がけた商品。
文/羽田朋美(Neem Tree) 写真/安藤佐也加