新生児の爪はびっくりするくらい小さくて柔らかく、爪を切るだなんて、おそろしくてとんでもない!と思うママやパパはいっぱいです。そんな赤ちゃんの爪切りの不安・こわさを少しでも軽減したいと立ち上がったのが、開発担当の岩永さん、フォルムなど外観のデザインを担当した三觜さん、素材・色・質感など表層デザインを担当した金さんです。お三方に、発売ホヤホヤの『ベビー電動つめやすり』への熱い想いとともに、商品の魅力をたっぷりとお聞きしました。
目次
誰もが感じていた!赤ちゃんの爪を切るのはこわい!
――まず、『ベビー電動つめやすり』を開発するにいたった経緯をお聞かせください。
岩永さん
赤ちゃんの爪切りに関する調査をしたところ、約8割のママやパパが「赤ちゃんの爪を切るのはこわいと思う」と回答したんです(※)。さらに、「小さな爪がよく見えず、指先を傷つけそうになってしまったのでこわい」「切りすぎて深爪になってしまい、ショック」など、赤ちゃんの爪切りをネガティブに感じている声もたくさんあったことが理由の1つです。この調査結果を踏まえて、ピジョンだったらどのような製品にしてママやパパの心理的な側面に寄り添えるかな、というところからスタートしました。
ベビー市場日本初(※)の「往復式」で、もうこわいなんて言わせない!
※国内大手育児用品メーカーが発売した電動爪やすりにおいて(2024年7月時点 自社調べ、INTAGE/Nint(21年1月‐24年5月)参照)
――『ベビー電動つめやすり』は、国内のベビー市場において初めての「往復式」ということですが、主流の「回転式」を選ばれなかった理由を教えてください。
三觜さん
「回転式」の爪やすりにもよい点はあるのですが、高速回転するのでかなりの振動がありますし、遠心力で爪を削るため、軸に近いところと遠いところとで、与える力の加減が必要になってくるんですね。「回転式」は、扱いに慣れていないとムラが出てしまうこともあります。そういった市場環境の中、岩永さんが直線方向に動く「往復式」の機構を提案してくれました。
岩永さん
たくさんの他社品に触れて検討を重ねた結果、「往復式」は、やすり部分が爪に対して並行に動き、安定して爪に当て続けられるので、仕上がりをなめらかにできるという意見で一致し、この動作方法を採用しました。
その後のモニター調査で、こわくてまだ赤ちゃんの爪をハサミで切ったことがないというママに試作品を使っていただいたのですが、「初めて爪を短くすることができました」とよろこぶ姿を見て、コンセプトとして掲げていた“赤ちゃんの爪を切るこわさを軽減できる商品”になっていることを実感できました。
『ベビー電動つめやすり』のこだわりポイント3つ
国内のベビー市場初の「往復式」を採用した『ベビー電動つめやすり』
――続いて、『ベビー電動つめやすり』のこだわりポイントについてお聞かせください。
こだわりポイント1
新生児の小さな爪でもなめらかな形状に整えられる
はじめてにおすすめな「ソフトモード」と、爪ケアに慣れてきた頃や、大人の爪に使用するときに便利な「ノーマルモード」の2つのモードが搭載されているので、初めての方でも安心して使えます
岩永さん
直線方向に動く「往復式」で、生まれたての柔らかい爪でもなめらかに整えることができるのが最大のこだわりポイントです。ケア後に、赤ちゃんが自分のお顔に引っかき傷をつくることがない爪に仕上げることを意識しました。
こだわりポイント2
爪先が見やすいコンパクトヘッド
三觜さん
赤ちゃんの小さな爪がヘッド部分で隠れてしまうことがないように、極力ペン型に近づけて、縦長のコンパクトヘッドを追求しました。爪先が見やすいことで削りすぎる心配もなく、赤ちゃんの爪を切るこわさはかなり軽減されたと思います。
赤ちゃんの爪が隠れてしまう「回転式」の電動つめやすりと異なり、「往復式」は赤ちゃんの爪の1本1本を確認しながらケアすることができるので、削りすぎて深爪になることを防ぎます
ヘッドには片面ずつ、粗さの異なる2種類のやすりが付いているので、繊細な作業をしたいときなど、用途や爪の成長に合わせて使い分けができます。パーツを付け替える必要のない構造になっているのもポイント
こだわりポイント3
繰り返し洗って使えてお手入れがラク!
岩永さん
つめやすりは、やすり部分のアタッチメントを用途に合わせて、あるいは劣化したら交換して使うものも多いのですが、『ベビー電動つめやすり』は、やすり部分を取り外して洗えるので、清潔に使用・保管できます。アタッチメントを交換する手間もありませんし、何度でも使えるので経済的です。
デザイナーが魂を込めた!ママの気持ちに寄り添ったフォルムとグラフィック
商品の形状をデザインした三觜さん(左)と、商品の表層部分のデザインを担当した金さん(右)
――デザインにもたくさんのこだわりがあるとお聞きしました。まず、金さんが担当されたピクトグラム(直観的に理解できるシンプルな絵やマーク)や色・質感などのデザインのこだわりについてお聞かせください。
金さん
出産後はホルモンの影響や慢性的な睡眠不足などもあり、文字を読む力や何かを認識する力が普段より劣ると言われています。そこで、電源スイッチや操作モード、やすりの粗さなどもパッと見ただけでわかるように、あえて文字ではなく、絵やマークといったピクトグラムで表現することにしました。2種類のやすりを表すピクトグラムをいかにわかりやすく表現するか、というところではとても悩みました。自宅でも、子どもの爪を切りながらずっと考えていましたね。
柔らかい爪やケア後の仕上げに適した粗さをなめらかなカーブのピクトグラムで表現(左)。爪を削って短くするのに適した粗さをギザギザしたピクトグラムで表現(右)
三觜さん
最初は「START / STOP」など、文字を入れる案で進行していたのですが、金さんがチームに入ってくれたタイミングで、もっと端的で直感的に伝える必要があるんじゃないかという議論が進みました。やすりの粗さを表す山形のカーブは、粗く削れるほうをギザギザで表現していて、とてもわかりやすいですよね。ここに行き着くまでに金さんには何十案も出していただきました。
金さん
本体の色は、ピジョンの爪ケア用品でまとめたときにシリーズ感が出るカラーにしました。また、形状自体がスラッとしていてスタイリッシュなので、大人っぽいデザインに振りすぎると新生児に使える安心感がなくなってしまいます。そこで、あえてやさしいトーンにして、やわらかい印象を与えました。
やさしい気持ちで使ってもらえるように、差し色のイエローは淡めのトーンに。疲れていても認識できつつ、やわらかい印象のカラーリングを採用しました
漂白したような白さだと医療機器のような印象になり、アイボリーだと古びた印象を与えてしまうといいます。ちょうどいい「白」のバランスを探りました
金さん
なくさないようにペンのようにおしりにはめることができるキャップの色は、ボディと同じ白ではなく、透明にしました。当初はキャップを白くして先端の金属部を見せないという話もありましたが、それよりも、どのような形状になっているのかわかるほうが、ママやパパの安心感につながると感じたんです。
――キャップや色にまで、安心感を追求されていたのですね!直観的に使えるマークの工夫も、赤ちゃんの爪を切るこわさの軽減につながっていそうな気がします。
岩永さん
悩んだり考えたりするプロセスがあるだけで心が疲れ、不安につながる場合もありますからね。わかりやすい絵やマークは、心理的な負担を和らげる役割を担ってくれています。
ブランドロゴもやさしい色味をセレクト
――形状にもとことんこだわられたそうですね。
三觜さん
小さな指先を狙うので、ママやパパが手を広げないと掴めないような太さにしてしまうと疲れてしまうため、とにかく形を細くしたかったんです。真横から見ると、湾曲しているのですが、ここに指が収まるように、ギリギリまで細く造形しました。一方で、中の機構がちょっと複雑になっているので、ボタンに近い部分を細くするのはなかなか大変でした。
三觜さんが描いた製品スケッチ(左)。試作品は複数つくり、赤ちゃんの爪の見えやすさ、使用上の疲れにくさを探りました。完成品と、先端や形状を改良する前の試作品を並べた様子(右)
電池が入っている部分は、重さが逃げる設計に。ボタンは人差し指でもアプローチしやすい位置に配置して、どこまでも使いやすさを追求しています
三觜さん
当初は、動作中にヘッドの先端が上がりきったときに金属のシャフトが見えていたんです。この金属の棒が見えると機械的でこわいという意見をいただいたので、目隠しのカバーをつけました。こうした細かな部分も含めて、恐怖感を和らげて使っていただけるところを目指しています。
金属部分が隠れるように、カバーの形状を工夫しました
三觜さん
ほかには、テーブルの上に置いたときに転がらないよう、あえて、本体に平面の部分を作っています。実はこの平面は、注意表記の領域も兼ねているんですよ。ただ単に形を美しくするだけがプロダクトデザイナーの仕事ではなく、こういった必要な要件を盛り込んで最終的な形を魅力的にすることが仕事だと思っています。
安定感を出すための平面は、注意表記の領域にもなっているというアイデアに脱帽!
「通常ネジ穴の形はただの丸であることが多いのですが、今回の製品は、そんな機械的な部分にまでやさしい印象を感じる気遣いをしたいと思ったんです」と、三觜さん。ネジ穴1つにも心地よさを感じられる配慮がなされています
出産準備品として、入院バッグに入れておくのがおすすめ!
「製造会社様や、電動つめやすりにおける社内の担当者の協力もあり、無事に製品化まで進めることができた」と語る岩永さん
――『ベビー電動つめやすり』はこれだけこだわりのある商品なので、ご苦労も多かったのではないでしょうか。
岩永さん
「往復式」を採用するにあたって、内部の構造がやや複雑になっているため、回転式と比べても、どうしても音が大きくなってしまうという問題がありました。不快と感じないレベルまで抑えられるように製造会社様と協議を重ねました。最終的に内部の構造を調整することでクリアできたのですが、予定していたスケジュール通りに、製品をお客様へ届けることができるか、不安でいっぱいでした。
――最後に、この記事をお読みのママやパパへメッセージをお願いします!
金さん
上の子が赤ちゃんだったとき、初めての爪切りは、薄くて小さな爪を震えながら切っていた記憶があります。おそるおそる、けれども一生懸命切ったのに、爪に角が出て赤ちゃんが自分の顔を引っかいてキズになってしまったりすると、本当に悲しくて……! そんなママやパパの救世主になるのが、『ベビー電動つめやすり』です。初めての爪切りでも安心して使える工夫を詰め込んでつくった商品ですので、安心してお使いいただけます。いま、第2子を妊娠中なので、私も出産準備品として買うつもりです。岩永さん、間に合わせてくれてありがとうございました(笑)。
岩永さん
この商品を担当することが決まったときに、私自身も初めてつめケアを行うママ・パパの気持ちを知る必要があると思い、実際に赤ちゃんの爪を切らせていただきました。新生児の赤ちゃんより少し大きな爪でしたが、すごくこわかったことを今でも覚えています。だからこそ、ママやパパの爪切りのこわさを払拭したいという一心でこの製品と向き合いました。『ベビー電動つめやすり』を使うことで、赤ちゃんの爪切りのハードルを下げていただきたいと思います。
三觜さん
新生児の赤ちゃんから使える爪やすりですので、ぜひ出産準備リストに入れていただきたいと思います。また、少し大きくなった赤ちゃん、未就学のお子さま、小学生、そしてママやパパの爪を整えるのにも使っていただける仕様になっておりますので、ご家族で、長く使っていただきたいですね。『ベビー電動つめやすり』が、楽しく育児するきっかけになったらうれしいですね。
ピジョンの爪切り・爪やすりラインナップ。左から『新生児つめきりハサミ』『ベビー電動つめやすり』『ベビーつめきりハサミ』『ベビーつめきり てこ型』。パッケージデザインにもシリーズとしての統一感を高めるこだわりや、機能をわかりやすく伝えながらもインパクトを残す工夫がされています。
まとめ
開発に携わったお三方のこだわりをお聞きし、「こんなに細かいところまで?」と驚くような視点の数々に、どこまでも赤ちゃん思い、ママ思いのピジョン精神を感じました。『ベビー電動つめやすり』なら、赤ちゃんの爪切りのこわさを確実に払拭してくれるでしょう。
今回取材したのはこの人
工業デザインを担当した三觜さん(左)。社員提案制度「PFA」から誕生したピジョンブランド公式キャラクター「ほわぴぴ」の企画にも携わる。
同じくデザイン担当した金さん(中央)。製品の外側をコンセプトに合った美しいものにするデザインを担当している。
開発担当の岩永さん(右)。入社以来、製品開発一筋。おもに食具や消毒関係の商品を担当
文/羽田朋美(Neem Tree) 写真/安藤佐也加